ホーチミンのタン・ソン・ニャット国際空港に着いたのは２３時過ぎ。
ゲートを出る手前にあるブースの中で割安なところを選び市内までの
タクシーチケットを8ドルで購入する（ちなみにメーターなら５ドル）。

安心なはずの空港タクシーだったが、動き始めてすぐに運転手がチケット
に書かれているのと俺が行きたい行先が違うと言いだし差額を払えと
ごねだした。ニコニコ笑って“NO！”と力強く言うとぶつぶつ言いながら
あきらめたが、今度は空港を出るとき車輌が払う何かの料金は客持ちなので払えというようなことを言ってくる。実はそれは8ドルに既に含まれているので、「あ～あ、着いたそうそうついてねえな」なんてしょうもない駄洒落を思い浮かべながら完全にだんまりを決め込んだ。こんな感じで
言われたままお金を払ってしまう日本人が結構いるんだろうなあなんて
思いながら、無表情を装いながらも無事にホテルに着くことを心の中で
祈る。

ふと外の濡れそぼった暗い路上に目をやると、寝ている人や小さな明りの
灯った屋台の脇でボロ屑のように丸くなっている人が目に入った。そのす
ぐ先にはどでかいネズミ2匹が追いかけっこしてじゃれあっている。

人も動物も生をむき出しに生きるアジア。
それに触れたくて、ここまでやってきた。
心の中の風車が、久しぶりに回り始めた。