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メキシコ、カリフォルニア、日本 暮らしへの好奇心は尽きない
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開高健を追って



歳と共に旅の仕方が変わってきた。
昔は知らないところに行くこと自体が旅の目的だった。とにかくさしたる計画も立てず、バスが行けるところ、体力が続くまでといった感じの無鉄砲な旅だ。今思うとそんな旅では予測もつかないようなことが頻発するのだけれど、それを何とかやり過ごし前進することが醍醐味だったような気がする。しかしここ数年は事前にある程度その国の歴史や文化を調べ、その中で興味を持った場所を訪れるようになってきた。どちらにもそれぞれ面白さがあるのだが、残された時間を意識するような世代に突入したせいか、歴史を理解したうえでより深くその国の本質に近づきたいと思うようになってきた。

そういう意味で今回のベトナム旅行は中部の古都フエにも行ってみたかったが、滞在期間が短く、また航空券の行先がホーチミンでもあったためその周辺でテーマを探すことにした。そこで出てきたのが①メコンデルタを見ることと、②開高健のベトナムに触れることだった。

実は開高健という作家のことは随分昔に紀行文を少し読んだくらいで、魚釣りが好きな太ったおっさん程度しか知らなかった。けれど今回のベトナム旅行に際し調べて行く中で、彼がヴェトナム戦争当時、従軍記者をしていたことを知った。その経験を書いた「輝ける闇」を読み、ベトコンが掘りに掘った総距離4000kmともいわれるトンネルが決定的な役割を果たした様子が実感できた。さらに別の本にも、この穴に実際潜ってみれば当時米軍が感じたであろう底なしの恐怖が理解できると書かれてあった。ここまで来ると当然の成り行きとしてそのトンネルをこの目で見てみたくなったのだ。





ホーチミンの西北70kmのところにあるクチトンネルを訪れた。全長200kmありカンボジア領内にまで通じていると言われるトンネルネットワークだ。説明パネルで見るトンネルは最大3層構造で、病院(手術も行われていた)や食堂も設けられていて地下帝国のよう。どこか蟻の巣をほうふつさせる。しかし実際のそれは快適なものであるはずもなく、潜ったあとにその過酷さに震えることになる。中は完全な闇で懐中電灯がないと一歩も動けない。大人がしゃがんで天井にあとわずかしかのスペースしかなく、幅は一人が前進できる程度で、長身で太った外国人なら移動はきついと思う。僕が潜ったこの観光客向けに開放されていたトンネルの一つは、クネクネ曲がりながらも20~30メートルほどの距離しかなかったんじゃないかと思うけれど、途中で息苦しくなって一瞬動けなくなってしまった。一刻も早く外に出たいのにまっ暗なトンネルから出られない恐ろしさといったらない。

そんなトンネルだけど、自分たちの真下を走るトンネルに潜む敵に24時間命を狙われることこそ真の恐怖だろう。その恐怖を止めるためにもアメリカ軍は空から狂ったように大量の枯葉剤を撒いた。

さて、開高健が前線に参加し九死に一生を得たときのことが「輝ける闇」に書かれているが、同時にそこには当時の南ベトナム政府の本拠地であったホーチミン(当時はサイゴンと呼ばれていた)の戦時下の様子も描かれている。外国人記者や軍人などが入り乱れる社交場の熱気やベトナム人の女との逢瀬が、食通で知られた開高の本領発揮とばかりに多くの食べるシーンとともに出てくる。食は命をつなぎ性は命を生み出すものだけれど、戦時下という死と隣り合わせの状況下でのそれらの描写は、ぎらぎらと迫ってくる。





彼はサイゴン川沿いに建つマジェスティックホテルにも滞在していたとのこと。現在もあるそのホテルを帰国日にぶらっと訪れてみた。

部屋を見せてもらおうとフロントに尋ねたら、彼の常宿していた103号室はあいにくふさがっていたために断念。しかしコンシェルジェ横のネットコーナー壁にカトリーヌドヌーブと並んで掛けてあった彼の写真と対面した。



その後、ロビーのラウンジでサイゴン川を眺めながらコーヒーを啜った。命の危険を冒してまで戦場へ向かう記者たちの胸中にあったものは一体何だったのだろう。そんな彼らもすでにこの世にいない。そしてあれだけのすさまじいエネルギーが注がれた戦争もすでにどこかに消え失せた。いったい人間は何のために働き、何のために戦争し、何のために生まれてくるのだろう。排気ガスを吐き出しながら目の前を疾走するバイクの群れを眺めながら、答えの出ない愚かな問いをいつまでも考え続けた。
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異文化と自然を愛するイグアナ楽団のページへようこそ。これまでメキシコとアメリカに合計10年住んできました。それ以来人生の歩き方をテーマとして追い続けています。海外を旅するといつも考えさせられる豊かさとは何か。それについて思ったことを書いていきます。
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好きな言葉:「生きていくうえでもっとも大切なことは、自らを律し、可能な限り自分に正直であること」
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