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メキシコ、カリフォルニア、日本 暮らしへの好奇心は尽きない
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ラクダの客引き捕われ記



エジプト滞在中、帰国日も迫ってきたのである日ギザのピラミッドを見に行くことにした。ガイドブックによるとピラミッド地域入場料60ポンドでこれにはスフィンクス見学代も入っている。ピラミッド内部に入りたい人はそれぞれのピラミッドにつき内部入場料を別途払うことになる。それと注意すべきこととして、法外な値段を吹っかけてくる悪質ラクダ引きにつかまらないようにとある。まあ、ラクダに乗るつもりもないから大丈夫だろう。僕は、入場チケットだけ買って後はのんびりと歩いて見学出来ればいいかなと考えていた。

“人生は世の荒波にて成る”と言ったのはゲーテだ。この日、この言葉をいやというほど噛みしめさせられる結果となる。そうだ。ラクダ引きにまんまとやられたのだ。ゲーテもさぞかし痛い経験を積んで、思わずこの言葉が出たのだろう。彼の気持ちがよく分かる。

ギザのピラミッドに行くために、早朝カイロ市内のタリフール市バスターミナルまで行き、そこからクフ王のピラミッド近くまで行く357番のバスを待った。むろんバス停などなく近くにいた人に聞いた場所でひたすらバスを待つ。そこには既に外国人のようなそうでもないような風貌の3人組がバスを待っていた。30分くらいしてようやく357とアラビア数字で書かれたバス(このため前夜アラビア数字を必死で覚えた)が到着し運転手にピラミッドまで行くことを確認後乗り込んだ。

ピラミッドまでの所要時間は約1時間。すぐに溜まりに溜まった旅の疲れが襲ってきて爆睡状態に陥った。しばらく経つと誰かが僕の肩を揺らしている。あわてて飛び起きると一人の太った体格のいい40歳くらいのエジプト人が僕を起こしてくれたことが分かった。男は、ピラミッドに行くならここで降りてマイクロバスに乗るかえないとだめだという。このバスはピラミッドまで行くんじゃなかったっけと一瞬思ったが、あの3人組もすでにおらず乗客もほとんど乗っていない。そこで男の言う通りそこでバスを降りた。降りると男は、『エジプトには外国人をだますやつもたくさんいるから気をつけろ』と言う。そして、『自分は今から家に戻るところだが、ちょうどピラミッドの近くで地元民しか入れない無料の入り口があるからお前もそこから入ったらいい』と言ってくれた。その後、家族の写真を見せてくれたり、家族の話を聞かせてくれたりと(後になって全てこれは自分を安心させるための罠だったと分かるのだが)、かいがいしく困っている外国人を助ける心優しきエジプト魂の役割を演じ続けたのだ。そしてやって来たマイクロバスに一緒に乗り込んだ。

ほどなくしてマイクロバスが止まり、男について貧しそうな集落の間を歩いていくと前方にピラミッドが見えてきた。やった。この男はやはりいい奴だったんだと疑ったことを少し反省した。男は、『この先に無料ゲートがある』という。そして再び歩き始めると100mほど行ったところにある建物に入って行った。そして着いてこいとジェスチャーする。

その建物に入った瞬間全てを察知した。そこはラクダ引き屋だったのだ。壁には俺と同じようにしてここに連れてこられ、抵抗するまもなくラクダに乗せられた引きつった笑顔の欧米人の写真が所狭しと貼られている。そのとき、奥からカーフィア(スカーフ)を巻いてガラベイヤ(ゆったりとしたシャツとスカートが合体したような服)を身に着けた大男のおっさんが奥から金歯を光らせて登場した。そして居丈高にそばにいた下男にチャイを持って来いと命ずると、僕に向き直り茶色く濁った目を細めながら黒い顔を緩ませ何とも言えない不気味な笑顔を振り向けてきた。(くぅ。このキャスティング、シチュエーションに合い過ぎ)

もうここまできたら無事には帰れんなと観念した自分は、被害を最低限にとどめることに専念することにした。こうなったら、ラクダでも、コヨーテでもやかんでも、何にだって乗ってやる。その代り恐ろしく値切り倒してやると自分の守護霊達に総動員をかけた。

おっさんは、テーブルの上にあったメニューをおもむろに引き寄せてどれがお好みか聞いてきた。むぅ。ここでらくだに乗りたいそぶりを見せると相手のペースにはまるな。ここは場合によってはロバにするかもよ位のニュアンスは残しておこうとわざとラクダにそれほど興味はなく我が家はロバ派ということを匂わした。すると俺の心の中を読んだのかおやじがエコノミーコースもあるぞと別のメニューを見せてきた。よしこの調子だ。そこで今度は、本当はピラミッドもそんなに興味はなくて10分程見て帰る程度の消化試合のつもりで来たんだとかましてやった。おやじの目が充血し始める。僕はわざと時計をちらちら見て相手を焦らせる作戦に出た。おやじは常々日本人にはお世話になっているからお前には特別サービス料金を提供したいと言ってきた(いったいどんな世話なんだよ?)。

『ラクダで3つのピラミッドとスフィンクスを周って、クフ王の内部に入って4時間で950ポンド(約167ドル)でいい』とおやじは言ってきた。ちなみにピラミッドは徒歩で回れば60ポンドで済む。来た来た。そこでチャイをずずっとすすると、『余計なものはいらん。時間も短くていい』と返した。『それじゃあ3時間でクフ王内部なし。700』とおやじ。『うちは代々ロバ派だぞ。ロバもありだぞ』と俺。おやじの頬が少し赤身を帯びてくる。店の外でラクダをひいた若い衆数人が遠目で怪訝そうにこちらを見ているのが分かる。外も緊迫してきたな。『特別値引き500』おやじ。『高い。もう一度言う。徒歩なら60だ』俺。頭の上でエジプトのファラオの亡霊たちと倭の国の精霊たちが遣り合ってる。『くー。最後だぞ300』おやじ。『200!』俺。ふと前を見るとおやじが沸騰する寸前だ。やばいと思った自分は結局250ポンドで手を打った。もう内容なんてどうでもいい。早く五体満足でここから出なきゃやばい。頭上の精霊たちもかなり憔悴している。ちなみに250エジプトポンドで約44ドルだ。結構な金額だ。これだけ値切ってもおやじは大儲けに違いない。ふぅ。タフなおとっつあんだよ。

その後、ロバではなくラクダにまたがってピラミッドを周った。正味約50分とものすごく短縮されたが、初めてのラクダ体験は面白かった。しかしその後もラクダ引きにチップを要求され、ファラオの亡霊のしつこさにある意味感心させられた。

エジプトの客引きのレベルは“世界客引きランキング”でもかなりの上位に入るだろう。さすがファラオの国。4千年以上に渡って洗練され続けててきたテクニックは極東の島国育ちでは太刀打ち出来ない。ならばもし不幸にして罠に引っ掛かってしまったら、太刀打ちするのではなく見学する立場に回ればいい。そうすると面白いショーを見ることができる。でも、くれぐれも余りショーをお熱くしないようにね。
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異文化と自然を愛するイグアナ楽団のページへようこそ。これまでメキシコとアメリカに合計10年住んできました。それ以来人生の歩き方をテーマとして追い続けています。海外を旅するといつも考えさせられる豊かさとは何か。それについて思ったことを書いていきます。
プロフィール

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好きな言葉:「生きていくうえでもっとも大切なことは、自らを律し、可能な限り自分に正直であること」
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